第15回卒業式式辞
(2022/02/25更新)
令和4年2月25日
第15回卒業式式辞
本日ここに、第15回大阪府立堺工科高等学校 卒業証書授与式を挙行するに際し、保護者の皆様のご臨席を賜りました事、教職員を代表いたしまして、心から御礼を申しあげます。
さて、卒業生諸君、卒業、おめでとうございます。ただ今、皆さんに卒業証書をお渡ししました。
皆さんが入学してからこんにちまで、学校が楽しく充実した時期もあれば、勉強が分からず試験で苦労したり、人間関係で心を痛めたことも、あったでしょう。
また、友人にさえ相談できない苦難があった人も、少なからずいた事と思います。
そのような中で迎えた今日の日は、皆さんそれぞれが、一つの強い信念を持って、やり遂げることができた、意義ある「卒業」だと思います。
皆さんの卒業に当たり3つの「大切にしてほしいこと」を述べて、はなむけの言葉とします。
一つ目は、「何事も強い信念をもってやり遂げること」。
北京オリンピックで、男子スノーボード・ハーフパイプ代表の平野歩夢選手は、日本人選手初となるスノーボード種目で、金メダルを獲得しました。スノーボードとスケートボードの二刀流に挑戦する彼にとって、メダル獲得までの道のりは非常に厳しいものでした。
スケートボードで出場する東京オリンピックが1年延期されたことで、2022年開催の北京オリンピックとの間隔が短くなり、スノーボードの練習との両立が難しくなってしまったのです。村上大輔コーチも「さすがの歩夢でも、北京には間に合わないんじゃないか」と心配していました。
しかし、彼はひたすら練習を続け、どんなトップ選手でも、一日に30本台飛ぶのが限界のところ、最大69本のジャンプを飛んだといいます。
平野歩夢は、「僕は、誰もいない道を行く。新しい物を作る側として唯一無二の物を作りたい」、と前に進んできました。才能だけではなく、一つの強い信念を持って、やり遂げることができた意義ある「金メダル」だと思いました。
皆さんもこれからの人生、何事も強い信念を持って、やり遂げてください。
二つ目は、「何事も誠実に取り組むこと」。
イギリスの元首相でノーベル文学賞を受賞した、ウィンストン・チャーチル氏は、「誠実でなければ、人を動かすことはできない。」と語っています。
私の教え子の中に建材メーカーに就職したN君がいます。在学中の彼は、学習や部活の成績は目立たないが、何事にもまじめに取り組む誠実な生徒でした。そのまじめさが買われ、就職して2年目で工場のライン長になりました。
ある時、東南アジア方面の木材が高騰するという情報があり、フローリング床板の製造を急ぐ複数のハウスメーカーから大量の注文が来ました。当然、通常のシフトでは納期に間に合いません。すぐに自分の製造ラインの部下20名を集め、残業をお願いしました。皆彼の父親くらいの、年上の部下ばかりです。突然の残業の指示に口々に反発され、現場が収拾つかないほどでした。
ですが、一人だけ黙っていた男性が声を発しました。「わしらも予定があるのに、突然残業を言われて困ってる。でも、誰も見ていなくても、いつもまじめにやってるNさんが言うことやし、やらんかったらお得意さんも困る。みんな予定を調整して、協力しょうか」と声を掛けてくれ、仕事を進めることが出来たそうです。
社会に出て、地味で目立たない仕事であっても、こつこつと真摯に取り組んでください。その姿は必ず誰かが見ています。誠実であれば、人を動かすことも、信頼関係を築くこともできます。
三つ目に、「人の感情や経験などを理解する能力」を大切にしてください。
社会に出ると価値観や考え方が違っている人、あるいはそもそもどんな価値観をもっているのか分からない人と、協力して働かなくてはなりません。そこで必要とされるのが、「人の感情や経験などを理解する能力・エンパシー」です。
英国に在住されている作家・ブレイディみかこさんの著書『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の中で、彼女の息子が通う中学校の試験に「エンパシーとは何か」という問題が出るシーンがあります。息子は「自分で誰かの靴を履いてみること」と的確に解答しました。
ブレイディさんは「すごくタイムリーでいい質問だね。世界中で、それは大切な問題になっていると思う」と声をかけました。
エンパシーは、たとえ相手の考えに賛成できなくても、理解できなくても、その心情を汲むことで分断を回避し、お互い建設的に話し合うことができます。その力こそ、立場の違う相手と一緒に仕事を進め、成果を生み出すための源となります。
最後になりましたが、保護者の皆さま、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。こんにちまで、本校の教育活動に対し、ご理解とご協力を賜りました事を改めて、御礼申しあげます。
それでは、皆さん。きょう、この日の人生への船出を心から祝福し、私からのお祝いの言葉といたします。
令和四年二月二五日
大阪府立堺工科高等学校
校長 中田 浩史